「鳴り止まない電話」から始まった挑戦 、大規模病院におけるWEB予約システム導入決断の経緯
――貴院のような大規模な病院が、WEB予約システムの導入を検討されたきっかけについて教えていただけますでしょうか?
最大のきっかけは、患者さんから「予約センターへの電話がなかなか繋がらないので、WEB予約を導入して欲しい」とのご意見が非常に多かったからです。
当院の予約センターでは予約をメインとした様々なやり取りが患者さんと行われていますが、1件あたり平均15分から20分も電話応対に時間がかかってしまい、非常に非効率的でした。
また、予約センターのスタッフたちが、朝から鳴りやまない電話の応対をしてもかかりにくい状態が続くので、ようやくつながった電話でお叱りから始まり、さらに応対時間が長くなる、といった悪循環に陥る状況でもありました。
そのため患者さんからも「WEBで予約ができるようにしてほしい」という要望が多く寄せられるようになりました。そこで、他の国立病院や大規模病院さんの導入状況を調べましたが、LINEでの予約やWEB予約を導入している事例はほぼありませんでした。

――WEB予約システム導入によって最も期待されたことは何ですか?
やはり電話応対の数を減らすことです。
電話が繋がらないことに対する患者さんからのクレームが非常に多かったため、それらが解消されることを期待しました。電話が繋がらないイライラによりエキサイトされた患者さんから、予約のことだけでなく、予約センター以外の業務に関する不満にまでクレーム内容が広がることもあり、スタッフの疲弊にもつながっていました。
イライラが少しでも解消されることで、患者さんの不満もスタッフの疲弊も減らすことができるのではと期待しました。
――現在の予約センターの体制と予約件数についてお聞かせください。
当院では、初診と再診では予約センターが異なります。
初診の予約センターは外部業者に委託しており、年間約7,000件の初診予約を4名体制で受付ています。初診の患者さんは症状や希望受診科以外に、お名前・生年月日・電話番号などの個人情報の聞き取りが必要なため、その聞き取りだけで1件あたり20分近く掛かることもあります。
再診の予約センターは、当院の非常勤職員が担当していますが、こちらも応対には1件あたり約10分、長い人で15分ほどかかっています。
――そんな中、多くの選択肢の中からメディカル革命をお選びいただいた理由をお聞かせください
とにかく、他の国立病院や大学病院に導入事例がなかったため、手探りでいくつかのベンダーを検討しました。その中でGMOインターネットグループのメディカル革命を選んだのは、まずインターネットに強く、セキュリティの面で最も信頼性が高いと判断したからです。
新たなシステム導入時においては、まず患者さんの個人情報漏洩防止や、電子カルテなどの病院ネットワークシステムに支障を来す場合の懸念を払拭することが非常に大きなポイントでしたので、GMOインターネットグループの製品であればセキュリティ的に大丈夫だろうと判断しました 。(GMOはインターネットセキュリティに強いイメージを持っていました。)
また、WEB予約を考えるならLINEでの予約※オプション機能は絶対に外せないと考えました。予約専用アプリを利用するシステムもありますが、その設定方法を患者さんにご説明するよりも、LINEであれば私たちの親世代や超高齢世代も含め、非常に多くの方がアプリを利用されているため、患者さんにとって使いやすく、抵抗感が少ないと考えたからです。
LINEでの予約ができる予約システムをいくつか検討していく中で、メディカル革命が私たちのニーズをもっとも満たしていました。
「歯科口腔外科」からのスモールスタート 、 導入成功の鍵と次なる科への課題
――多くの診療科がある中で、なぜ最初に「歯科口腔外科」を選ばれたのですか?
歯科口腔外科は、初診予約の電話件数が圧倒的に多く、全体の約4分の1を占めていたため、まずは歯科口腔外科に導入することで業務負担軽減の効果が得られるという意識がありました。また、歯科口腔外科は基本的に地域のクリニックさんからのご紹介による手術がほとんどですので、予約の組み合わせが少なく、ファーストステップとしては導入しやすい診療科であることも理由のひとつです。
――診療科の先生方との調整や幹部会議の承認は大変でしたか?
導入にあたり、歯科口腔外科の先生たちは協力的でした。
もちろん「WEB予約でたくさんの患者さんが予約してしまうのでは」という懸念も少しはありましたが、初診の予約枠は1日5〜6枠と決まっており、それ以上は予約できないことを説明したら、すぐにご理解いただけました。
幹部会議での承認も同様に、意外とスムーズに進みました。
幹部メンバーも「電話が繋がらない問題」を認識しており、「この問題を解消したい」という話をしたら、「導入することを進めてほしい。」と受け入れていただき承認されました。
――導入後の運用について、大変だったことや現在の状況をお聞かせください。
私が中心となって院内の周知活動を行いましたが、今回は歯科口腔外科と予約センター、地域連携室が主な関係部署だったので、関係部署間の調整で特に大きな苦労はありませんでした。
スモールスタートをしたことが良かったのだと思います 。まずは予約センターのスタッフにメディカル革命に慣れてもらうことが重要でした。
導入開始当初はWEBからの予約枠を1枠から始め、半年ほど経って2枠に増やしました。現在では、その2枠も開けた途端にすぐに埋まってしまいます。これを見ると、WEB予約は患者さんからのニーズが非常に高いことを実感しています。
患者さんご自身で都合の良い時間に予約できるのが一番良い点だと感じています。
――LINEを予約以外の患者さん向けの情報発信(休診情報、面会制限など)に活用される可能性はありますか?
患者さん向けの情報発信はホームページが主ですが、それは情報を確認しにきた方だけが得られるものになります。
現在は、予約可能な科が歯科口腔外科のみにも関わらず、LINEの友達登録者数は順調に増えてきておりますので、今後はLINEを使って患者さんに情報を発信することも探っていきたいと考えています。
クリニックとは異なる、大規模病院ならではの活用法があると考えています。
――患者さんから、メディカル革命のシステムについて何かお声はありますか?
特に良い・悪い・使いづらい・分かりにくいといった具体的な声は届いていません。患者さんにとってWEB予約が今ではもう「当たり前」の予約方法になっているのかもしれませんね。
高齢者の方からの大きなクレームも特になく、その点は安心しています。
――次の他科展開における課題をお聞かせください
整形外科など他の診療科へ広げていきたいと考えていますが、整形外科は専門性が高く、手や膝・首など、部位によって専門医が決まっています。地域連携クリニックの先生方とも良好な関係が築けており、「手ならこの先生、腰ならこの先生」といった形で紹介されてきます。
WEB予約はそこを患者さんが自由に選択できてしまうため、整形外科医ではあるが膝の専門医に手の症状の方、などのミスマッチが起こりやすく、それらをどのように分かりやすく誘導し、解決できるかが一番の大きな課題です。
そういった専門性があることから、先生方の中にはWEB予約に抵抗がある方もいるようですので、その点はしっかりと予約導線の組み立てをしなくてはなりません。
――地域医療連携のための別システムも運用されているとのことですが、その活用状況はいかがですか?
地域医療連携用の予約システムについては、残念ながら現状ではあまり利用率が高くありません(月に1~2件程度)。
地域医療連携はこれまでFAXでのやり取りで時間がかかっていましたので、この地域連携用の予約システムでクリニックの先生方が個別アカウントを利用して、当院の予約を取得できる、という売りがあるのですが、なかなか利用率が上がりません。
将来的には、これらの地域医療連携用の予約システムと患者向け予約システムを一本化し、双方の利用率をあげていきたいと考えていますので、メディカル革命の医療連携機能※に期待したいですね。
※医療連携機能(2025年11月リリース予定、病診・診診連携機能)

目指すは大規模病院でも「WEB予約が当たり前」の未来、導入成功への提言と次世代の病院像
――今後のメディカル革命の機能改善や期待することはありますか?
以前、歯科口腔外科の予約枠に、産婦人科の患者さんが誤って(あるいは意図的に?)予約を入れてきたことがありました。「電話が繋がらないから」という理由で、「産婦人科予約」と書かれていて驚きましたね。結局、その患者さんにお電話で連絡し、予約を取り直しましたが、このような意図的な誤予約を防ぐ仕組みがあればと思います。
また、WEB問診票の連携をやりたいと考えています。ただし、国立病院ではセキュリティ上、病院のネットワークと外部システムを直接繋ぐことは非常にハードルが高いため、オフラインでの連携方法を構築していただければと思います。
――導入を検討している病院へのアドバイスをお願いします。
「まずはやってみる」が大切だと思います。
やってみてうまくいかなければ改善すればいいだけのことです。とにかく、やらないことには何も始まりません。最初の一歩を踏み出してしまえば、あとはやるだけですから。
そして、何よりも診療部の理解と協力が不可欠であり、必須です。 病院全体の課題として取り組む姿勢と思想がなければ、スタートしても軌道に乗せることはできません。
ですが、あまり難しく考えすぎて始められないのでは意味がない。それぞれの診療科に特徴がありますので、最初からすべてに対応したWEB予約を作り上げることは困難です。
大規模病院では、「大きく描いて、小さく始める」これに尽きると思います。
――笠原室長の最終的な展望や未来像をお聞かせください。
いずれは、全診療科にWEB予約システムの導入を目指したいです。
これができれば恐らく日本初となるでしょう。
将来的には、WEB予約のみという形が理想だと私は思っています。ですが、全国的に見てもまだ大規模な病院でこういったWEB予約システムを導入しているところが少ないのが現状です。
多くの病院、特に地域連携室では、まだまだ電話やFAXからの脱却に抵抗があります。さらには、電話に依存しやすい高齢の患者さんを切り捨てるわけにはいかないという意見もあります。
しかしながら、患者さんからのご要望も高く、今後も現場の人手不足が加速していくことを考えると、デジタルの力を借りて業務の効率化を進めていくことが急務であると考えています。
そして、診療費の支払いは「後払いシステム」を導入します。これも将来的には診療費の支払いを後払いのみにしたいですね 。これはさすがにそうなると良いなぁ、と言う私の願望がかなり入っていますが、実現すれば職員の負担がグンと減り、患者さんの待ち時間も大幅に短縮されます。診療が終われば支払いを待たずにそのまま帰宅できるわけですから。
これが私の描くこれからの理想の姿です。
――編集後記
「まずはやってみること」
大規模病院ほどその一歩を踏み出すことが大変である現実があるからこそ、取材で伺ったこの言葉は深く響きました。一つのシステム導入が、未来の患者体験、そして次世代の病院運営という大きなビジョンへと繋がっていく。
その実践の軌跡に、医療DXの確かな可能性を感じずにはいられません。小さな一歩ではありますが、東京医療センター様と踏み出した確かな一歩を大切に、そしてさらに貢献できるよう、様々な機能を充実させていきたいと思います。
▼独立行政法人国立病院機構 東京医療センター
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