タスクシフトとは、「仕事の一部を他の職種やツールに任せることで、仕事の負担を軽減する」という考え方です
―― 熊野:森先生はクリニック医療における「タスクシフト」について研究・実践されているのですね。
「タスクシフト」とはどのような概念なのかをご説明いただけますでしょうか?
森先生:2024年の4月に医師の働き方改革の施工が予定されており、医師の時間外労働上限規制が始まります。
病院とか大きな医療機関では、すでにタスクシフトを推奨する指針が厚労省から出ていたのですが、私はクリニックにおいてもタスクシフトが必要と考えていました。
そこで、私自身がクリニックを開業するにあたり、クリニックレベルのタスクシフトとは何なのだろう、どういうことをすれば良いのだろうというところから研究を始めました。
例えばカルテの代行入力や、文章の作成、検査結果や検査の案内などをスタッフにやってもらうとします。しかし、それをやるためには、そのスタッフは何か他の仕事を手放さなければいけません。
そうするとやはり大切になるのは、その仕事の効率化になりますね。
タスクシフトとは、「仕事の一部を他の職種やツールに任せることで、仕事の負担を軽減する」という考え方です。
タスクシフトにより生まれた時間でその人にしかできない仕事をする。それがクリニックレベルでのタスクシフトの目指すところなのかなと考えています。
患者さんに最善の医療を届けるためには、患者さんの顔を見てしっかり診察してあげたい
―― 熊野:先生がタスクシフトに興味をお持ちになったきっかけがあるのでしょうか?
森先生:タスクシフトに興味を持ったのは自分がずっと外来診療をやってきた中で感じていたジレンマと関係があります。おそらく内科のほとんどのドクターが同じように感じていると思うのですが・・・。
紙カルテが電子カルテに代わった時代から、診察中にモニターを見てキーボードをカチャカチャ叩いて、患者さんの顔はほとんど見ずに診察が終わる、みたいなことが普通になってしまったんですよね。
私としては、患者さんに最善の医療を届ける上では、やはり患者さんの顔をしっかりと見て、しっかり診察してあげたいという気持ちが強かったんです。
しかし、そうすると、診察が一通り終わった後に自分でカルテに入力し、検査のオーダーをし、処方のオーダーをやって、ようやく次の患者さんをお呼びできるようになる。
当然、その次の患者さんもお待たせしてしまいます。
これが自分の中では ものすごくストレスになっていたんです。カルテを書く時間がもったいないですし、オーダーとかのミスも起きてしまうので。
そういう状況が何とかならないかなと思っていた時に、タスクシフトという概念に出会いました。
そして、タスクシフトを取り入れているクリニックに見学しに行ったんです。
そのクリニックの先生にお勧めの予約システムを聞いてみたときに、初めてメディカル革命を知りました。
当院は内科と小児科を併設していますので、予約もそれぞれで管理できて、WEB予約で患者さんを迷わせない予約導線を作れるところが導入を決めたポイントでした。
―― 熊野:ありがとうございます。メディカル革命への問い合わせもタスクシフトがきっかけだったんですね。
しかし、医療DXの最たる例である紙カルテから電子カルテへの移行において、今までなかった新たな課題が生じていたとは意外でした。忙しい医療現場ではまだまだ改善の余地がたくさんありますよね。
森先生:患者さんにしっかり医療を届けるためには、診察室内の業務をいかに効率よく回すかが重要になってきます。医師1人ですべてやろうとすると、診察室での時間というのが一番のボトルネックになってしまいますので、医療クラークさんを隣に置いて、カルテの代行入力をしてもらうのは必須だなと感じました。
ただ、代行入力をやってもらうためには、その方の他の事務タスクをどうするかを考えないといけない。システムや機械に任せられる部分はすべて任せないといけない。
こうした考えをクリニック運営に取り入れ、仕組化をしていけば必ず改善できるというイメージを持ちました。
すべてをIT化すればいいというものではない。お困りの患者さんをいつでも助けられるように時間を作るべきというのが基本です
―― 熊野:ありがとうございます。単純に効率化や売上向上というのも、クリニック経営を好循環させる上では絶対必要なんですが、やはりその先には先生がおっしゃった患者さんの顔を見る、目を見るというところにどう時間を割けるか、その時間をいかに捻出できるかを掘り下げていきたいです。
タスクシフトの観点で、ぜひ先生から予約システム導入の人的・時間的メリットをお伺いしたいです。
森先生:これはですね、逆に私が聞きたかったんですけど(笑)。クリニックが予約システムを導入するメリットをどういう風にお考えなんですか?
―― 熊野:逆質問は想定外でした(笑)。他の診療科目の例になりますが、美容皮膚科のお客様で、受付のスタッフ17名が電話応対を手動でやっているところがありました。
そのクリニックでメディカル革命を導入したところ、売上が倍になって、コールセンターの人数を0名にしたという実績があります。
ただ、人手不足・業務効率化への貢献は嬉しい反面、過去にすべての受付対応をロボットで対応するシステムを何度か手掛けさせてもらいましたが、無機質な印象を患者さんに与え、売上が下がったことがありました。
私は、長期的にみて医療の現場において完全に受付を無人化をすることは、(診療科目や医院設立のバックボーンにもよりますが)使い方を間違えると温かみがなくなり、良くない場合があると経験上、感じています。
とはいえ、業務負担は、受付のスタッフが不愛想であったりイライラしていると患者さんにも伝わると思っています。そしていくら患者さんに優しく対応したくても、忙しすぎてゆとりがないと温かみが生まれてこない。
アンケートを取って、スタッフの方にフィードバックさせるなど、そこまで含めて実行することで、時間の効率化というものがより成果を出せるのかなと思っています。
徹底的にクリニックの業務を効率化させたい場合は、いかに患者さんが来院される前に患者情報や過去の診療を把握して、且つ、その情報共有をいかに最短で行い、生まれた時間をどう的確に使えるかまでを設計できるか、というところにかかっていると思います。
私がクリニックさんから相談をお受けした際は、業務フローの変更を提案することも多々あります。
そこでスタッフが変革に対応しきれるかどうかも課題になります。
これについて先生のご意見もいただけますでしょうか?
森先生:そうですね。私も全く同感です。
特に医療機関というのは患者さんが病気で困っているから来るところなんですよね。
それなのに、「当院は機械が全て対応します」と言われたら、患者さんは「えっ」となると思うんですよ。
ですから医療DX化についての捉え方として、我々は自分たちの業務の中の「機械にできることは機械に任せ、人にしかできない仕事をする」という考え方を大切にしていて、患者さんへのホスピタリティのところでは、お困りの患者さんをいつでも助けられるように体制を作るべき、というのが基本だと思っています。
ただ、実際問題として、予約システムを導入した場合と、従来のように紙台帳で予約を管理しているようなクリニックの場合とで、その予約受付・管理にかかるコストや、人の時間が、一般的な内科クリニックでどれだけ圧縮されるのかなというのは興味があります。
―― 熊野:診療科別ですと、整形外科や美容皮膚科などは目に見える数値が出せています。
診療の数を増やすことができて、かつスタッフの数を減らすことができますので、そこが受付・予約システムの導入効果の一つの指標になるかなと思っています。
システム化ができた分、1人の患者さんの診察にかかる時間が短くなることは、より多くの患者さんを診察できることに繋がります。
その時に気をつけなければいけないのが、売上だけではなく、その患者さんの満足度がいかに上がるか、チームとして対応できているかです。
先生が診察する前に看護師さんや受付の方が患者さんとコミュニケーションを取り、その短い会話の中のキーワードを拾って、先生に伝達ができるかどうか。
ここまでできれば本当に好循環であり、タスクシフトとしての一つの成功のポイントになると思っています。
内科の場合は、明らかに数値として出せるのが営業時間外での受付です。IVR(電話自動応答サービス)(※)で、営業時間外もシステムに働いてもらえる。この時間で、これだけのコストで、人を雇用していると思えば予約システム導入の費用対効果も分かりますね。
(※IVRはオプション機能です。)
確かに時間外に電話してきた患者さんの予約が取れるのは、大きなメリットかなと思います。
―― 熊野:スタッフの方に実際に受電内容の統計を取っていただけると、どう改善できるか見えてくると思います。意外と客観視するって難しいところなのですが、森先生のタスクシフト研究会の第一回から第四回のレポートを読ませていただきまして、先生であればそこを数値化していただけると思いました。
また、クリニックの時間の使い方の詳細を我々にもアウトプットいただけると、そこに対してこういう改善を一緒にやらせてもらえないかというご提案ができると思っております。
森先生:なるほど、分かりました。ちょっとスタッフにも聞いてみます。
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※オペレーターへ繋がります。
担当より折り返しさせていただきます。
職場環境が一番重要
患者ファーストではなくて、職場環境ファーストです
―― 熊野:森先生がご自身のクリニックを経営されている重責の中で、幸せを感じるタイミングはどのようなところになりますか?
森先生:日々忙しかったり、いろんなことが起こりますが、やっぱり私は職場環境が一番重要だと考えていて、患者ファーストではなくて、職場環境ファーストなんです。
例えば、先ほども話に出ましたカルテ代行入力ですが、医療事務さんにとってこの仕事は本当に難しくて、一朝一夕で身につくものではないんです。集中して頭をフル回転させてやらないといけないので、かなりストレスフルです。
それでもこの仕事の必要性と魅力をクラークさんに説明して代行入力に入ってもらい、多くの患者さんの満足度を落とさずに効率よく診察が回せた日があると、スタッフさんみんなと
「本当に今日大変だったけど、クラークさんのお陰で患者さんをしっかり診療することができたし、とても充実していたね」
と話しができたりするのが、とても良い時間だったりします。
開業して一年。このクラークシステムがうまく回り始めたのも最近のことです。
試行錯誤の連続だったからこそ、当院の職場環境がすごくいいなと思う瞬間が幸せだなと感じます。
―― 熊野:ありがとうございます。そのようなお話を聞けたのは森先生からが初めてだと思います。
森先生:スターバックスなどは「サービス・プロフィット・チェーン」といって、利益優先で考えずに、まずは内部環境の充実から始まり、結果、サービスが良くなり顧客の満足度もあがり、最終的に利益がついてくるものという考え方を取り入れていますが、私もこの考え方が好きでして。
内部環境がしっかり整っていて、内側からクリニックの良さを患者さんに発信できる、そういうクリニックにしたいなと思っていたので、それが一番幸せかもしれないですね。
―― 熊野:チームワークも雰囲気もすごく良い職場なのでしょうね。
森先生:はい。この1年離職者はおらず、本当に嬉しいことにみなさんが残ってくれています。そして今はスタッフも増えて、さらに盛り上がってる感じがあります。
―― 熊野:素晴らしいですね。すてきなお話をありがとうございます。今日先生のお話を聞かせていただき、我々も同じ志を持つ仲間として伴走させていただきたいなと思いました。
では、最後にクリニックの今後の展望をお聞かせください。
タスクシフトを世の中に広め、社会貢献をしていきたい
森先生:まだまだ発展途上ですが、タスクシフトはとても魅力的ですし、世の中に広めていきたいと思っています。
ドクターはストレスレスで診察できますし、スタッフも医療に直結した業務ができるので、やりがいや誇りが生まれ患者さんの満足度も上がります。これが医療業界に浸透すれば、より良い医療を幅広く患者さんに届けられると考えています。
そのためにも当院の取り組みや成果を発信していきたいです。そんな風に考えて、これからも頑張ります。
本日はご多用中、貴重なお話をありがとうございました。先生のタスクシフトを広めたいという熱い思いが伝わる、素敵なインタビューとなりました。ぜひ一緒に医療業界に貢献させていただけたらと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
▼ 天白たかさかの森クリニック様 WEBサイト
https://tempaku-takasaka-mori.clinic/
● タスクシフト研究会情報
● タスクシフト研究会ブログ【第5回】機械へのタスクシフト<予約システム>